ラストワンマイルとは?物流業界の現状やEC事業者に与える影響を解説
EC市場の拡大によって宅配需要が増える一方、商品を消費者の手元まで届ける「ラストワンマイル」では、再配達やドライバー不足、燃料費の高騰など、さまざまな課題が生じています。配送の遅延や品質低下は物流事業者だけの問題ではなく、荷主やEC事業者の利益率、ブランドイメージ、販売機会にも影響を及ぼしかねません。
当記事では、ラストワンマイルの意味や現状、物流業界と荷主・EC事業者に与える影響を整理した上で、受取方法の多様化や配送ルートの最適化、具体的な対策を解説します。
物流のラストワンマイルとは
ラストワンマイルとは、物流センターや配送拠点から消費者の手元へ商品が届くまでの、最後の配送区間を指す言葉です。たとえば、自宅近くの配達営業所から玄関先までの区間がこれにあたります。もともとは通信業界で、最寄りの基地局と利用者を結ぶ最後の通信区間を表していました。現在は主に物流の分野で使われる言葉です。
宅配便やフードデリバリーなど、個人宅や店舗への配送がこれに含まれます。サプライチェーンの中で最も消費者に近い接点であり、顧客満足度を左右する重要な工程です。配送のスピードや確実さ、再配達への対応などが、そのまま利用者の評価につながります。近年はEC利用の広がりで配送需要が増え、配送品質と効率化の両立が課題になっています。
ラストワンマイルの現状
ラストワンマイルは、商品を消費者へ届ける最終工程として、顧客満足度を左右する重要な領域になっています。EC利用の拡大により、配送の速さや確実性、受取方法の柔軟さに対する期待が高まり、配送品質が利用者の評価に直結しやすくなっているためです。実際、物販系のBtoC-EC市場規模は2024年に15兆2,194億円まで拡大し、全商取引に占めるEC取引の割合を示すEC化率は9.78%に達しました。
出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
一方、配送業界の負担も増しています。国土交通省によると、2023年度の宅配便取扱実績は約50億個で、過去5年間で約1.2倍に増加しました。また、物流全体でも小口・多頻度化が進み、直近30年間で物流件数はほぼ倍増しています。再配達率は2026年4月時点で約7.6%まで低下したものの、再配達はなお追加の人手や時間を要します。荷物の小口化と配送件数の増加が続く中、利用者の利便性を保ちながら、限られた人員で効率よく届ける体制づくりが求められています。
ラストワンマイル問題が物流業界に与える影響
ラストワンマイル問題は、再配達やドライバー不足、配送コストの上昇など、物流業界が抱える構造的な課題をさらに深刻化させています。ここでは、業界に与える主な影響を解説します。
再配達の発生に伴う非効率な業務が増えた
再配達は、物流業界の効率を大きく下げる要因です。国土交通省の調査では、2026年4月時点の宅配便の再配達率は約7.6%でした。2025年10月の約8.3%から低下しているものの、依然として一定割合の荷物で再配達が発生しています。再配達が生じると、同じ荷物を再度配送する必要があり、ドライバーの走行時間や業務量の増加につながります。日中の不在などにより、一度で荷物を受け取れないことが再配達の主な要因です。
出典:国土交通省「宅配便の多様な受取方法の利用率は約31.0% ~前回調査(令和7年10月)に比べ1.1%増加~」
再配達が増えるほどドライバーの走行距離や労働時間が延び、燃料費や人件費がかさむ点も見過ごせません。多くの運送会社は再配達を無料で対応しているため、増えた分はそのまま会社側のコスト負担です。時間指定や再配達への対応でルート設計が複雑になり、1日に運べる荷物の量も限られます。こうした非効率の積み重ねが、現場の生産性を押し下げています。
ドライバー不足が深刻化している
ラストワンマイルでは、EC市場の拡大で配送する荷物が増える一方、それを担うドライバー不足が深刻化しています。背景には、いわゆる「2024年問題」があります。2024年4月から自動車運転業務に時間外労働の上限規制が適用され、1人あたりが働ける時間が限られるようになりました。そのため、従来と同じ人数では十分な輸送力を確保しにくくなり、配送の遅延やサービス水準の維持が難しくなるおそれがあります。
国の資料では、2030年に全国で約35%の荷物が運べなくなる可能性も示されています。今後は、再配達の削減や配送ルートの最適化、共同輸配送などを進め、限られた人員で効率的に荷物を届けられる体制を整える必要があります。
燃料価格の高騰に伴い配送コストが増加を続けている
配送はトラックによる輸送が中心のため、燃料価格の動きが配送コストを直接左右します。特にラストワンマイルは、住宅地を細かく回る短距離・多頻度の配送が多く、走行や停車を繰り返すため燃料費がかさみやすい区間です。再配達が発生すれば走行距離はさらに延び、追加の燃料も必要になります。
政府資料によると、2026年7月13日時点の軽油の全国平均価格は1リットル159.3円、ガソリンの全国平均価格は169.9円でした。燃料費が高い水準で推移する一方、その上昇分を配送料へ十分に転嫁できなければ、運送会社の収益は圧迫されます。そのため、再配達の削減や配送ルートの最適化によって、不要な走行を減らす取り組みが重要です。
「送料無料」サービスによって価格転嫁が難しい
ネット通販では「送料無料」が広く使われ、消費者が商品を選ぶ基準の1つになっています。しかし、実際には配送にも人件費や燃料費などのコストがかかっており、その負担自体がなくなるわけではありません。送料無料を前提とした販売が定着すると、配送コストの上昇分を商品価格や送料に反映しにくくなり、荷主やEC事業者の収益を圧迫したり、適正な運賃への価格転嫁を難しくしたりする可能性があります。
こうした状況を受け、消費者庁も「送料無料」表示の見直しに取り組んでいます。運賃や料金を消費者向けの送料へ適正に転嫁・反映し、配送には相応のコストがかかることへの理解を広げることが、持続可能な物流体制を維持することにつながります。
化石燃料賦課金の導入により燃料価格がさらに引き上げられる
2028年度から導入予定の化石燃料賦課金は、化石燃料の輸入事業者などを対象に、化石燃料由来の二酸化炭素量に応じて負担を求める制度です。賦課金が燃料価格へ転嫁されれば、軽油やガソリンを多く使う物流事業者のコスト上昇につながる可能性があります。
特にラストワンマイルは、住宅地を細かく回り、停車や再発進を繰り返す配送が多いため、燃料費の影響を受けやすい領域です。再配達が重なれば追加の走行も必要となり、コスト負担はさらに大きくなります。運賃への十分な転嫁が難しい場合には、運送会社の収益を圧迫し、持続可能な配送体制の維持を難しくするおそれがあります。今後は、制度導入を見据えた省エネ車両の活用や配送効率化が一層重要です。
ラストワンマイル問題が荷主・EC事業者に与える影響
ラストワンマイル問題は、物流事業者だけでなく、荷主やEC事業者の収益や顧客評価にも悪影響を及ぼします。ここでは、主な影響を具体的に解説します。
配送コストの上昇によって利益率が圧迫される
ラストワンマイルでは、少量の荷物を個別に届けるため、配送先ごとの立ち寄りや荷さばきに時間がかかり、人件費や車両費、燃料費が増えやすい傾向があります。さらに、受取人の不在によって再配達が発生すれば、同じ配送先を再度訪問する必要があり、追加のコストも生じます。
こうした負担が運賃の値上げとして荷主やEC事業者に転嫁されると、商品1件あたりの利益は縮小します。特に、送料無料を前提とするECでは、配送費を販売価格へ十分に反映できなければ、売上が伸びても利益率が低下するおそれがあります。
配送の質の低下や遅延に伴いブランドに傷がつく
ラストワンマイルは、商品が顧客の手元に届く最後の接点であり、その配送品質はブランドへの評価に直結します。配送の遅延や誤配送、商品の破損などが起きると、商品自体に問題がなくても、顧客の不満は荷主やEC事業者に向けられることがあります。
特にECでは、配送体験もサービスの一部として受け止められやすく、悪い印象が口コミやSNSで広がれば、再購入の減少やブランドイメージの低下を招きかねません。一方で、指定日時に確実に届き、丁寧な対応が行われれば、顧客満足度は向上します。安定した配送品質を保つことは、顧客との信頼関係の維持にも有効です。
配送キャパがあふれることで販売機会を喪失する
ドライバー不足や繁忙期の荷物集中によって配送能力が限界に達すると、荷主やEC事業者は必要な配送枠を確保できなくなることがあります。特にセールや年末年始など注文が集中する時期には、配送業者が新たな荷物の受け入れを制限し、販売したくても届けられない状況が生じかねません。
その結果、注文受付の停止や販売数量の制限、配送日の長期化を余儀なくされ、売上機会を失う可能性があります。さらに、販売計画やキャンペーンの実施にも影響が及び、事業全体の成長を妨げる要因になります。そのため、安定した配送能力を確保できる体制づくりが求められます。
物流業界が取り組んでいるラストワンマイル問題の解決策
物流業界では、ラストワンマイル問題を解決するため、受取方法の多様化や配送ルートの最適化、共同配送、新技術の導入など、さまざまな対策を進めています。
受取方法を多様化する
ラストワンマイルの効率化に向け、物流業界では荷物の受取方法を多様化しています。従来の対面受取に加え、宅配ボックスやコンビニ受取、駅などに設置された宅配ロッカー、玄関先へ荷物を届ける置き配などが普及しています。
利用者が都合のよい時間や場所で受け取れるようになれば、不在による再配達を減らし、ドライバーの走行距離や業務時間の削減につながります。また、配送事業者側も限られた人員や車両を効率的に活用しやすくなります。一方、置き配には盗難や破損のリスクもあるため、利便性だけでなく、安全面にも配慮した仕組みづくりが求められます。
配送計画や配送ルートを最適化する
配送の効率を高めるため、物流業界では配送計画やルートの最適化が進んでいます。近年は、AIやシステムを活用し、交通状況や時間指定、配送先の位置、荷物量などを踏まえて、効率的なルートを自動で算出できるようになりました。
無駄な走行や待機時間を減らせれば、ドライバーの負担軽減や燃料費の抑制につながります。積載効率を高めることで、限られた車両でもより多くの荷物を運べます。従来は担当者の経験や勘に頼っていた配車計画も短時間で作成しやすくなり、業務負担や属人化の軽減にもつながります。配送ルートの最適化は、限られた人員と車両を有効に活用するための対策です。
共同配送や物流拠点の集約によって効率化を進める
複数の企業が連携する共同配送や物流拠点の集約は、ラストワンマイルの効率化を進める有効な手段です。共同配送では、別々の企業の荷物を同じトラックに積み合わせて運ぶため、積載率を高め、走行する車両の台数を抑えられます。
これにより、配送コストや燃料消費、CO2排出量の削減が期待できます。また、分散していた物流拠点を集約すれば、在庫管理や仕分け、積み替え作業を一本化しやすくなり、限られた人員や車両を効率よく活用できます。配送の重複や無駄な走行を減らせる点もメリットです。特に配送需要が少ない地域では、複数の荷主が連携することで、持続的な配送体制の維持にもつながります。
ドローンや自動配送ロボットなどの新技術を実用化する
物流業界では、ドローンや自動配送ロボットなど、新たな技術を活用したラストワンマイル対策が進められています。ドローンは上空を飛行するため渋滞の影響を受けにくく、離島や山間部など車両での配送が難しい地域でも活用が期待されています。
自動配送ロボットは、物流拠点や店舗から歩道などを走行して荷物を届ける仕組みです。人手をかけずに配送できれば、都市部の駐車スペース不足や地方のドライバー不足の緩和につながります。一方で、安全性の確保や運用ルール、導入コストなどの課題も残っています。現在は各地で実証実験が進められているほか、低速・小型の自動配送ロボットでは一部で社会実装も始まっており、さらなる普及に向けた技術開発や制度整備が進められています。
荷主やEC事業者がラストワンマイル対策として取り組むべきこと
ラストワンマイル問題は、荷主やEC事業者側の工夫でも影響を和らげられます。再配達を減らす仕組みづくりや配送体制の確保、物流のアウトソーシングなど、自社で取り組める4つの対策を紹介します。
受取方法を選びやすいUXに変更して再配達を減らす
購入者の生活スタイルや在宅時間はさまざまで、受取のタイミングが合わないことが再配達の一因になります。そこで、注文画面では置き配やコンビニ受取、宅配ロッカー、日時指定などを分かりやすく提示し、生活に合った方法を選べるようにすることが有効です。
さらに、配達日時を選びやすく表示したり、発送・配達予定を通知したりすれば、受取忘れも防ぎやすくなります。住所や部屋番号の入力ミスを減らす仕組みを整えることも、誤配や再配達の抑制につながります。こうしたUX改善によって、利用者の利便性を高めながら、ドライバーの負担や配送コストの削減も期待できます。
配送パートナー企業を複数確保する
配送を1社だけに依存すると、運賃の値上げや配送キャパの不足、災害、システム障害などが発生した際に、出荷が滞るおそれがあります。代替手段がなければ販売機会の損失にもつながるため、複数の配送パートナーを確保しておきましょう。
複数の運送会社や宅配サービスと契約しておけば、繁忙期に1社が混み合っても、別の事業者へ荷物を振り分けて配送を続けられます。また、地域や荷物の種類によって得意な事業者を使い分けられるほか、運賃やサービス条件を比較しやすくなる点もメリットです。配送手段を分散することで、突発的なトラブルに備えながら、安定した事業運営につなげられます。
需要予測を立てて繁忙期の配送キャパを確保する
セールや年末年始など、注文が集中する時期に配送が追いつかないと、遅延や出荷制限につながります。これを防ぐには、過去の販売実績や季節ごとの傾向、セール予定などをもとに需要を予測し、必要な配送量を早めに見積もることが大切です。
予測した物量を配送会社と事前に共有すれば、必要な車両や人員、配送枠を確保してもらいやすくなります。倉庫の人員配置や在庫量も前もって調整でき、出荷の遅れを抑えられます。需要予測が不十分な場合は、急な物量増に対応できず、販売機会の損失や顧客満足度の低下を招きかねません。繁忙期を見据えて計画的に準備することが、安定した配送体制の維持につながります。
物流業務のアウトソーシングを活用する
自社だけで物流業務を担うと、受注量の増加に応じて倉庫の人員や保管スペース、配送体制を拡張する必要があり、負担が大きくなります。そこで、保管や梱包、出荷、配送などを専門事業者へ委託する物流アウトソーシングを活用する方法があります。
外部の設備や人員、物流ノウハウを利用すれば、繁忙期の物量増にも対応しやすくなり、自社は商品開発や販売促進などの中核業務に集中できます。また、複数の配送網を持つ事業者へ委託すれば、配送キャパを確保しやすくなり、地域ごとの配送効率向上も期待できます。自社で大規模な物流設備や人員を抱えずに、注文量の変化に応じた柔軟な配送体制を整えられる点もメリットです。
まとめ
ラストワンマイル問題は、再配達やドライバー不足、燃料費の高騰による配送コストの増加だけでなく、配送遅延や品質低下、販売機会の損失にもつながります。対策には、受取方法の多様化や配送ルートの最適化、共同配送、需要予測などが有効です。
自社だけで対応が難しい場合は、物流アウトソーシングも選択肢となります。清長では、EC物流の実績を生かし、商品の保管から梱包、出荷までを支援しています。物流体制やラストワンマイルに課題を感じている場合は、ぜひ一度ご相談ください。






